メンタルヘルス・コラム

新うつとは? 最終回

2015.11.02

ストレス学説は、外界や内界の刺激(出来事や人間関係、胃痛など)に対して、生体がどんな反応をするのかを明らかにした。しかも、その際の生体の反応は人間のパーソナリティに影響されるといわれる。すなわち気分(感情)、認知(期待や思考)、身体反応、行動反応などが影響を受けるということだ。

パーソナリティの形成は、先天的、後天的の両面から成るが、いずれにせよ心理療法を生業としている者にとっては、パーソナリティの変容に興味を持つことになる。つまり、その人の物事の受けとめ方、感じ方、考え方によって生体の反応が違ってくるということになれば、心理療法も科学性を持ち効力があるといえるからである。

このシリーズでは、新しいうつとパーソナリティの関係を述べてきたが、上述した考えに基づくならばこのような仮説は何も新うつだけに限ったことではない。ガンの精神療法に携わっている筑波大学の宗像恒次氏によれば、患者がガンという病気をどのように受け止めているかによって、その人の健康度や日常生活のあり様が決定されるという。

例えばガンという病気から様々なことを学び、ガン細胞と一緒にゲラゲラ笑ったりする人は、日常生活に幸福感を見い出し、結果的にも延命につながるという。また、筆者が面談したうつ病のクライエントの方も「先生、私はうつ病になって良かったです」と述べた。

「それはどうして?」とたずねると、「私は人間関係が苦手で、職場異動してからそのことがストレスになり、うつになってしまいました。2ヶ月入院したのですが、その間にどうしてうつ病になったのか自分なりに考えてみたんです。そうしたら、自分は父親との確執があり、甘えたことがなかったんです。それをずっと引きずっていたことに気づきました。それで退院し、職場復帰してから係長や同僚に『この仕事教えて下さい』とか『ちょっと助けてもらってもいいですか』と言うようにしたんです。その結果、周りも機嫌良く応じてくれました。以前よりは見違えるほど人間関係がうまくできるようになりました。気持ちを声や言葉にすることが、いかに大切かを知りました。これもうつ病になったおかげです」このクライエントは私が知る限り、最も早く回復した人だったように思う。そういう点からも、パーソナリティを見つめることがいかに重要かが解る。

たとえば、「完璧主義」というパーソナリティがうつの病前性格として取り沙汰されるが、これは「取り入れ(摂取)」という「防衛機制(適応機制)」が極端に強く身についたものである。

「病気になるのはたるんでいるからだ!風邪を引くのは気合いが入っていないからだ!」と叱責され、その上で「しっかりするんだぞ・・・」と言われ、頭を撫でられた子供は、ひょっとしたら親の言ったことを取り入れるかもしれない。ひょっとしたらその子は大きくなってから病気を認めたがらない人になるかもしれない。何故なら病気になるのはたるんでいるから。「こうでなければならない」「こうすべきだ」といった思考パターンは、完璧主義傾向の性格に多いが、それは取り入れからきている。

ところで、同じ完璧主義でも自己愛性格が強い場合は意味が異なってくる。「この仕事は私でなければできない」「部下には任せられない」「全て私が点検しなければならない」といった意味合いが強くなる。強迫性性格が強い場合は、ミスやエラーが恐いという気持ちや、何か他に潜在的な不安があるために、1つのことに集中できず、何度も同じことを確認したりする。いかにも完璧を求めているように見えるが実体は違う。見捨てられたくない性格傾向が強い境界型の人にしても、素直になれないという演技性の人にしても、そこには様々な状況や背景がからんでいるため、パーソナリティ形成の「綾」を1つ1つ聴く必要がある。

そしてその人の主観や不安症状の中にこそそれを解くヒントや答えもある。その人のパーソナリティを受けとめ、反応の仕方の脈絡を理解することは大変な作業にはなるが、そのことが心理療法の仕事である。

「あなたはどうやってうつになったのですか?」「あなたはその出来事をどのように受け止めたのですか?」「その時、あなたはどのような気分(感情)になったのですか?」「その時、あなたはどんなことを考えていたのですか?そして次にどんなことを連想していったのですか?」「どうしてあなたはそのように考えたのですか?」「その時あなたのからだ(身体反応)はどうなったのですか?」「その時あなたはどんな行動をとったのでしょう?」クライエントのこれらのエピソードについて意味を理解し、自分の生き方の糧にできた時、聴く側に成長がもたらされる。それ故にこそ、この仕事はやめられない。

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