メンタルヘルス・コラム

新うつとは? その3

2015.11.02

うつは睡眠障害、食欲の異常、易疲労感など身体症状を伴うことが多いが精神的には落胆や失意といった抑うつ感、自責の念などの症状に支配される。

動物実験では「セロトニン」や「ノルアドレナリン」などの脳内神経伝達物質が不足していることが解っている。また大脳皮質、前頭葉の前部の血流も悪いといった指摘や副腎皮質ホルモンの過剰分泌によるセロトニンリサイクルシステムの障害とも伝えられている。

うつ病が脳の病気や心身の機能不全といわれるのはこのためである。

ところで、話題となっている新うつは、脳の病気などではなく「パーソナリティ」(性格)に起因すると言われている。パーソナリティは物事の受け取り方、感じ方、反応の仕方を表す概念であり、人によって様々である。今回は新うつの中でも自己愛・演技性の性格に基づくうつを取り上げたい。

うつと言うからには前述した抑うつ感や自責の念といった症状が2週間以上、時には数年に渡って続く場合である。その前提がなければうつとは言わない。仮面うつ病のように身体症状が前面に出て、一見精神症状がないように見える場合もあるが、それは隠されているのであって実体しないわけではない。むしろ隠された症状、潜在的な防衛を読みとらない限りうつの治療回復は望めない。

では、自己愛・演技性の性格のうつにはどんな特徴があるのか。

自己愛が強い人は根底に自分は特別だという意識を持っていることが多く「自分はこんなにも能力がある」「私は美しいでしょ!」「権力だってあるんだから」といった調子で周りに誇示したがる。したがって周りから批判されたり悪口を言われると内心では激しく反応してしまう。周囲の評価に敏感であり、自分が他人や世の中にどう映っているかがとても気になる。お世辞をほしがったり、ひどく容姿や身体的外見を気にする。それ故に相手からバカにされたり、無視されたり、期待どおりにならなかった時には、それこそうつ状態になってしまう。

演技性というのは一口に言えば、「素直になれないこと」である。誇張したり、芝居がかっていたり、大袈裟だったりする。どこか無理がかかっていて、感情表出も「まあ いらっしゃい!」とか「ほんとうに大変だったのよ!」といったオーバーになることが多い。

イイコタイプであれば相手を持ち上げたり、笑わせたりして、その場を演出する。躁状態が続きエネルギーを使い果たすと疲弊し、最後そんな自分を情けなく思い、嫌悪し否定する。その結果うつ状態になる。そんな情況で精神科のクリニックを訪れると大概うつの診断名がついてしまう。

また演技性の性格の強い人は自分が注目の的になっていないと楽しくなく、認めてもらえてないと感じてしまう。「Aさんあなたがいるから私たち実家に来れるのよ」とか「あなたがいるからこの店やりくりできているのね」といった言葉に弱く、またそれを励みに生きる。

演技性性格の裏に隠されたもの
Wさんは(29歳男性独身)は性格的には外向的で明るいと見なされている。同期会や会社の集まりでは決まってエンターテイナーの役割を果たす。新しいジョークを飛ばし、話しをしない人には世話を焼く。普通はそういうWさんを皆は歓迎し、いつもその役割を期待する。

しかしWさん自身はそのイベントが終わるとグッタリ疲れ果て、その後はなんにもする気になれなかった。そんなある日会社の飲み会でいつものように振る舞っていると、先輩の一人に「おまえ少しは落ち着きなよ。無理しすぎんだよ。だからお前女に持てないんだよ。女だって疲れてしまうよそれじゃ・・・」と言われてしまった。その場は皆の手前もあってつくろったが、内心ではひどくショックを受けた。自分の弱点を槍で突き刺された思いがしたからである。

それ以来日常生活の随所に似たような状況が展開すると落ち込むようになった。自分でもどこか無理したり背伸びしたりしてリラックスできないと思っていたのだ。

しかし精一杯演技し、皆を取り成すことこそ美徳だと思っていたのに「あの努力はなんだったのか。29年間の年月はなんだったの?」そう思うと居ても立ってもいられないほどの虚無感に襲われた。自分の心の拠が一挙に離れ去るように感じた。

Wさんはいつの間にか自分の性格を嫌い、今までの生き方を否定するような生活をしていた。それでも思い出したように頑張ろうとしたり、かと思うと世間体をひどく気にして生きてきた父親の分身だと言い張り、自分を責め、泣き?った。

Wさんの姿からとにかく周りからよく思われたかった。嫌われたくなかったという気持ちだけは読み取るのに難しくはなかった。それがどんな背景や物語からきているのか、カウンセリングの醍醐味はここから始まる。

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