メンタルヘルス・コラム

日常の“モラハラ”-ハラスメントその1-

2015.11.02

ハラスメント、いわゆる嫌がらせの中に「モラルハラスメント」と呼ばれるものがある。これは、言葉や言い方、態度や行動、メールや電話などによって相手や周りの人の人格を傷つけたり、尊厳を侵すことを言う。その結果、当事者は不安や脅えを感じたり、うつ状態に陥ったりする。時には、精神的外傷から辛かった体験や嫌なことが想起され、情緒不安定になる。

周りの人が過去の体験を持ち出したり、たまたま似たような話を出すと「やめて!!」と叫んだり、その場を回避しようとする。なかには冷汗をかいたり、不眠や動悸などの自律神経失調症になったり、パニック状態になる。

行動面では子どもたちは学校に行き渋ったり、不登校になったりすることもある。働く人たちは出勤拒否や退職せざるを得ない状況に追い込まれる。

では、モラルハラスメント(モラハラ)はパワーハラスメント(パワハラ)とどう違うのか。岡田康子氏は、パワハラとは「職権つまり権力や地位、資格などを背景にして、本来の業務の範疇を超えて継続的に人格と尊厳を侵害する行動を行い、就労者の働く環境を悪化させたり、雇用不安を与えること」と定義している。

平たく言えば、強い立場にある者が弱い立場の者に対し、繰り返しいじめや嫌がらせをすることである。そこには攻撃があったり、強要があったり、ときには強い否定や妨害などがあったりするが、いわゆるこれが「パワー」によるものである。

一方、モラルハラスメントは上述したようなパワーを背景にするのではない。

むしろ陰湿だったり、裏があったり、差別的だったりする。表面にはあまり出ないが、潜在的・習慣的に精神面に影響を及ぼす。ここでは主に職場でのモラルハラスメントの実際を紹介したい。

「こんなことをしてたんじゃ、この職場に居られなくなったりして・・・」など曖昧な表現で非難や排除をほのめかす。

部下や同僚がミスをしたり、トラブルを起こすと「えっ、また!」と大袈裟に言ったり、「チッ!」と舌打ちしたり、「ハーッ」とため息をついたりする。「そういえば、課長が君のことをねえ・・・」などと言いかけるが、途中で止めて不安を煽る。

何か聞いたり質問するとぞんざいな対応をしたり、いつも不機嫌な態度をとる。

「そういえばあなたって、家の最寄り駅が○○だったわよねェ」といったメールを送り脅す。

「ねェ、意味わかっているの?!」と常に自分が優位な立場で話す。

「誰かが言ってたけど、あの人大学出てないんだって」と出所が分からないように言ったり、差別的なニュアンスを含ませる。

その人だけには、お土産のお菓子を配らないなど差別的行為をする。

皆の前で「○○君は・・・」とか「この子は・・・」といった見下した呼び方をする。

自分の形勢が不利になると「○○君が言い出したことなんですよ」と責任転嫁する。

部下が仕事の催促をすると「そんなことよりお前、今日遅刻しただろう!」と話をすり替える。

「オレはオマエのことを責めているつもりはないよ」と口にしながらも責め口調で言う。

「あなた、結構煙たがられてるみたいよ」と言って孤立させる。

「おまえ、ウツやったんだよなあ」と皆の前でからかったり、嫌味を言う。

自分にとって嫌いな人には情報を伝えなかったり、嘘をついたりする。

「奥さん、よくそれで我慢しているよね」と人格をけなすような言い方をする。

「この係はあなたでもっているんだから、しっかりしないと」と過度の期待を押しつけ、圧迫感を与える。

「そうやっていつも皆の足を引っ張ってるよね」と言って決め付けたり、落ち込ませたりして、意欲を失わせる。

このようにモラハラの事例はきりがない。しかし、共通することは無視したり、拒否したり、不安を与えたり、過度の期待をしたりなどいわゆる人間関係上の差別が存在する。

精神分析学者サリバンは「精神医学とは人間関係論である」といったが、すべてのハラスメントはまさにそれを意味する。交流分析でいえば、ハ ラスメントにはマイナスのストロークがあるが、モラハラは特に言い方や表情、態度や関係など非言語的側面にマイナスのストロークが現れやすい。

しかし、翻ってみた時、モラハラ的人間関係やコミュニケーションは日常的には散見することである。モラハラを含めハラスメントの根源は生まれ育った環境の価値観や文化、それにその社会が目指しているモラルに拠る。従って、そのことを振り返り、気質や個性など自己理解や他者理解を深め、話し合い、自己表現のスキルを学んだり、人間関係の免疫力も高めていく必要がある。そうでない限り、どんなに決め事やルールを定めたとしても前進は望めない気がする。

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